第132回 話が具体的で分かりにくい?

「話が抽象的で分かりにくい、もっと具体的に話せ」誰もが一度は耳にしたことがあるこの言葉。このように、「抽象は悪」で「具体こそ正義」のように言われます。果たして本当にそうでしょうか。

たとえば、「今年はどんな一年でした?」の質問に対する答えで考えてみましょう。
Aさんは、「今年は結婚をして、引っ越しもして、転職もして、転機の一年でしたね」と答えました。
Bさんは、「“ガキ使”を見てたら、気付かないうちに年を越していて、そこから●●くんと●●さんと…17人にあけおめLINEを送って、そうこうしているうちに、1時13分になったので、蕎麦を食べて…」と答えました。
Aさんの話は抽象的で、Bさんの話は具体的でしたよね。
では、どちらが分かりやすかったでしょうか。抽象的に話したAさんですよね。

これは極端な例に感じたかもしれませんが、合説などで企業のプレゼンを聞いていると、Bさんのように話が具体的で“分かりにくい”と感じることがよくあります。
沿革や社史、商品名、技術論、工場にあるマシンの話など、具体的に伝えているシーンをよく見かけます。世の中のおおよその職種や業種を知っている私が聞いても分かりにくく感じ、興味が持てません。

逆に分かりやすいプレゼンは、理念、ビジョン、価値観、働く仲間のことなど、抽象度の高い事項に絞って伝えています。合説という限られた時間で、具体的な話をしても興味を持ってくれないことを理解しているからです。

プレゼンの上手い人は、1分なら1分、3分なら3分、20分なら20分と、与えられた持ち時間に合わせて、抽象度をコントロールしてプレゼンします。
逆に下手な人は「20分じゃ伝わらない」と時間を言い訳にします。20分のプレゼンが下手な人は、1時間も下手です。1分が上手な人は、1時間も上手です。

商品を長々と説明するより、15秒のTVCM、一行のキャッチコピーの方が魅力が伝わります。
映画もフルで見るとたいしたことが無いものも、予告編ではそのほとんどが面白そうに感じます。どれも抽象度の高い内容です。
そう、合説は映画の予告編のように抽象度高く伝えるべきなのです。「抽象は分かりにくく、具体は分かりやすい」という勘違いを捨てましょう。